お薬での治療
西洋薬治療
西洋薬に限ったことではありませんが、一般的に薬心療内科での治療は、薬物療法、心理療法ともに比較的長期間を要します。風邪などのように一過性で数日から1週間ほどで治るものではないことをご認識くださいませ。

西洋医学でのお薬を用いて心の治療する場合、「癖になってやめられないのでは」、「そのうち効かなくなり、薬の量が増えていくのでは」などと、さまざまな薬の副作用を心配されて、抗うつ剤や抗不安剤/睡眠導入剤などの服用に抵抗を持っておられる方がたくさんおられます。しかしながら実際のところ、医師が良心的にかつ医学的(科学的)知識・経験を元に、厳密に処方内容がコントロールしているのならば、これらの薬を極度に警戒される必要はございません。

また、一般的に眠気が少なく依存性もない漢方薬が患者さまの現在の病態に対して良い適応となるならば、漢方薬で代替することが可能な場合もございます。
お薬の副作用について
これら西洋薬が昼間の眠気、ぼんやり感、物忘れなどの副作用を起こすことがあるのも事実です。そのために、仕事やクルマの運転などの日常生活・社会生活の上で支障・危険をきたすことがあり得ます。そこでわたしたちは、薬の量や種類はなるべく控えめに、かつ効率の良い薬物療法をめざすように努力しております。

自覚症状としての副作用はなくとも、知らないうちに肝臓などの内臓系に副作用が生じている場合がときどきあります。そのため当院では定期的な採血検査や必要であれば心電図検査などを実施し、内臓系への薬の副作用にも留意して、安心してお薬治療が継続できるように配慮しております。

わたしたちは薬の副作用にはつねに注意を怠らず、その可能性を吟味し、副作用の可能性があれば「疑わしきは罰する」との原則をもとに、薬をただちに減量・中止いたします。

幸いなことに、薬の副作用による症状は、薬を中止すれば速やかに回復いたしますので、適切な判断・迅速な治療があれば、さほど心配する必要はありません。
当院では原則的に処方しないお薬のことなど
依存の可能性があるお薬や、問題視されているお薬は、当院では原則「新たに処方としてはじめる」ことはありません。また、これら若干の依存性(常用量依存)のある抗不安剤/睡眠導入剤を、すでに複数・大量に服用している状態で当院に初診される患者さまには、半年から1年以上の長期間をかけて、無理のないようにしながら徐々に薬を減量し、可能であれば中止していくように、患者さまとともに歩む共同作業として努力いたします。
当院の治療ポリシーとして、これらの依存傾向のある抗不安剤/睡眠導入剤などを、複数・大量にかつ漫然と処方継続していくことはありませんのでご理解くださいませ。
漢方治療
これら一群の西洋薬の一方で、漢方薬という選択肢があります。癖になることや、眠気もおこすことも少ないため、日常生活や仕事、特にクルマの運転などにも支障がありません。漢方薬のなかにも心の不調に効くお薬は多くの種類存在し、西洋医学とは異なった「心身一如」の考え方から、身体と心の不調を全体として改善します。

しかしながら、漢方薬が西洋薬に完全にとって代わることはできません。というのも、西洋薬には西洋薬の得意分野があり、漢方薬には漢方薬の得意分野があるからです。特に症状的に中等症から重症な場合は、西洋薬での治療が必要となることが多いのです。しかし、西洋薬での治療に漢方薬という選択肢を加えることで西洋薬の量や種類を減らすことは可能です。

また漢方薬でも副作用が生じることがあることは西洋薬とかわりはありません。わたしたちは西洋薬と同様、漢方薬による副作用にも常に注意してまいります。

当院で用いる漢方薬は保険診療の範囲内で処方可能なエキス剤のみです。自費となる煎じ薬は用いませんのでご留意ください。
漢方薬の良い適応となる症状
漢方薬が比較的得意とする心療内科関連の症状には次のようなものがあります。
  • ストレスによって生じる頻回の腹痛・下痢。あるいは下痢・便秘の繰り返し。腹満感など。特に朝の通勤時などに多い。
  • 慢性の頭痛・肩こり。片頭痛。例えばストレスによる緊張からくる頭痛・肩こり、冷えで悪化する頭痛、雨天前や低気圧通過時に起こる頭痛など。
  • ストレスによって生じる吐き気、不安、動悸、心悸亢進、めまいや浮遊感、あるいは憂うつ感など。
  • 不安にともなう喉や胸のつかえ感・圧迫感など。
  • 手足や腰部、腹部などの冷え症。それにともなって生じるさまざまな体調不良。
  • ストレスによって生じる胃痛、心窩部痛、食欲不振。
  • ストレスによって生じるイライラ感、そのために子供や家族、物などにあたってしまう。
  • 満員電車・人ごみ、クルマの渋滞の中などで起こる突然の不安・動悸・震え・過呼吸などの空間恐怖やパニック症状。
  • ホット・フラッシュ(下半身は冷えているのに上半身がカッと熱くなる)などの更年期障害の諸症状。
  • 月経痛、月経不順、月経前のイライラ感・不安感。
  • やる気が出ずおっくうで手につかない、食欲不振、あるいは食べてはいるもののおいしく食べられない、寝汗、持続する微熱など。
  • 軽度の不眠。真夜中に動悸がしての中途覚醒など。
妊娠と薬服用について
妊娠中、あるいは挙子希望の女性患者さまにつきましては、薬での治療に関しては特に注意が必要です。精神関係のお薬の胎児への影響はさまざまで、特に影響しないことのほうが多いのですが、なかには服用しないほうがよいお薬もあります。最悪の場合、頻度は非常に少ないものの奇形などの問題があり得ないわけではありません。

そのために当院では、妊娠中の患者さまには、妊娠中における薬の影響について豊富な知見を有する病院の専門相談外来へ一度受診をお勧めしております。
そこで、現在服用中の薬の妊娠への危険度について適切な判断をいただき、それをもとに必要であれば、妊娠中のお薬の調整・減量をおこないます。患者さまにも治療の安全性について安心していただくことができますし、また当院と患者さまがおかかりの産科医師とでこの情報を共有することで、安心して妊娠中の治療を継続できるように努めております。